よくある疑問で、「老齢年金の繰上げと、繰下げ、どっちが得?」があります。
定年退職が近くなると、多くの方が一度は計算してみたくなるのではないでしょうか?
この問題、実は、障害年金とも大いに関係していることをご存じでしたか?
※わかりやすくするために、この「年金」は「基礎年金」として考えます。
ちなみに、現制度では、原則として65歳から老齢年金を受給しますが、65歳になる前でも請求すれば受給できます。これが「支給の繰上げ」です。早めたぶん減額された年金額が一生涯続きます。
その逆が繰下げですね。66歳まで請求しなければ、それ以降の請求で、遅らせたぶん増額された年金額が一生涯続きます。
早めるにせよ、遅らせるにせよ、限度があります。
また、寿命も、ライフスタイルも、人それぞれ。
一概に「どっちが得(損)」という答えがないんです。損益分岐点の発想で「▲■歳」と計算する方もいるようですが、そもそも自分の寿命が分かりませんからネ…
ただし、障害年金との関係では、「繰上げ」はデメリットもあることは、知っておいたほうがよさそうです。
それが、このコラムでお伝えしたいことです。
具体的には「一人一年金の原則」により、老齢年金を繰上げて受給権が発生した時点で、制度上「65歳に達した」とみなされ、障害年金を請求できなくなるケースが出てくるのです。
少し詳しく書きますと…
障害年金の受給には、次の3要件(「初診日要件」「障害認定日要件」「保険料納付要件」)がありますね。
※大前提の「保険料納付要件」は割愛します。
まず「初診日要件」は次のいずれかに該当することが必要。
①被保険者であること。
②被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ60歳以上65歳未満であること。
もし「65歳に達した」とみなされたら、②の「65歳未満」に該当しません。
では、①は? こちらは年齢要件がなく、問題ありません。
次に「障害認定日要件」です。
①初診日から起算して1年6ヶ月を経過した日。
②1年6ヶ月以内に傷病が治ったときは、その治った日。
このいずれかの日に障害等級に該当する程度の障害状態と認められれば、「この日に」受給権が発生します。
では、ここで問題です!
老齢年金で支給の繰上げをした方が、その後、実は障害年金を請求できると知り、過去の障害認定日に遡って請求しようとした場合、どうなるのでしょうか?
(遡って請求する「遡及請求」については⇒こちらを参照)
答えは、初診日と障害認定日のいずれもが、老齢年金の繰上げ請求よりも前にあれば、障害年金の受給権のほうが早く発生することになりますので、障害年金を受給できます。
しかし、もし繰上げ請求より後に障害認定日がある場合は、老齢年金の受給権のほうが早く発生しているため、障害年金を受給できません。
その他にも、障害年金には「65歳に達する前」という年齢要件が関係するものがあります。「65歳に達した」とみなされると、実際には65歳未満であっても、受給できません。
例えば…
・事後重傷請求(二十歳前傷病も含む)
65歳に達する前日までに、障害等級に該当し、かつ、請求することが必要です。
・基準障害による障害年金
65歳に達する前日までに、障害等級に該当することが必要です。
請求は65歳に達した日以降でも問題ありません。
要するに、老齢年金の繰上げ請求による受給権の発生が先か、障害年金の受給権発生が先か。「どちらが早く発生するか」という問題として理解しておきましょう。
障害年金については、永久認定でない限り、障害状態の変化により将来的に老齢年金を受給する可能性も残されます。
老齢年金の繰上げ・繰下げについて「どっちが得?」と考える場合には、ぜひ障害年金のことも含めて、ご自分と家族の老後のライフプランを考えてみることをおススメします。

