私たち(健常者)が普段なにげなく行っている階段の上り下り。
きっと、多くの方は「上りは疲れる」「下りが楽」と感じるのではないでしょうか。
実は、こうした脳の感覚と実際の筋肉の疲労は、まったく別であることをご存じですか?
私は登山が趣味で、『登山の運動生理学とトレーニング学』(山本正嘉著)という本を以前読んだことがあるのですが、それによると、筋肉の運動には、短縮性(concentric)運動と、伸張性(eccentric)運動があるのだそうです。
階段昇降で最も重要な働きをする筋肉のひとつが大腿四頭筋ですね。
上りでは、普通に長さが縮みながら力を発揮します。
逆に下りでは、ゆっくり引き伸ばされながら、つまり筋収縮を開放しながら、体重を支える力を発揮し、ゆっくり体を下します。
(自分で試してみると一目瞭然です。)
筋肉にとって、前者は自然な運動ですが、後者は不自然な運動だということがお分かりでしょうか。
この不自然な運動が継続される長い階段や、登山の下りでは、筋肉の組織が急速に破壊されるそうです。下りで膝が笑ったり、転倒しやすくなるのはそのためなんですね。(納得!)
もちろん、上ったら下りないといけないので、この二つの運動はセットですが…
「下りが楽」とは、上りで生じる心肺機能の負担が少ないための大脳の感覚。
実際には、目に見えて感覚はできませんが、上りにはない筋肉の大きな負担がかかっているのです。
なぜ、こんなことを書くかというと…
障害をお持ちの方の日常生活を把握するために、私たち(健常者)は想像力をはたらかせることが必要だと思うからです。
当事者は、なんとか日常生活動作の一つ一つをできるようにしようと、たいへんな努力を積み重ねておられます。
ほんとうに頭が下がります。
同時に、その「できた」という言葉に、私たち支援者が甘えてはならない、とも思っています。
「できた」=「問題ない」ではないからです。
「ノーマライゼーション」という理念がありますが、私たちが業務範囲とする障害年金は、障害をお持ちの方が社会で健常者と同じように生活していくことをめざして、所得の面から支援する大切な目的があると理解しています。
だから、当事者のプライドに寄り添いながら、支援者である私たちが想像力をはたらかせて、しっかり障害年金を受給できるよう取り組みたいと思っています。
最後に、質問です。
上下肢が辺麻痺で杖歩行の場合、階段を上り下りできると思われますか?
ぜひ、実際に自分でやってみましょう!(転倒には十分注意してくださいね)
※『登山の運動生理学とトレーニング学』ご興味ある方はこちら

