4月3日、成年後見制度の抜本的な見直しが注目されている民法改正案などを政府は閣議決定し、今国会に提出されましたね。
私は、障害年金に専門に携わる社労士として、成年後見人としても業務を担当しています。
依頼者さんとのヒアリングの中では、「親なきあと」のご心配の声をよく聞いてきました。
障害年金を含む所得保障(お金)は大事だけれど、お金だけでは解決しない課題がたくさんありますよね。
成年後見制度の改正によって、何が、どのように、変わろうとしているのか?
概要をまとめてみます。

尾崎 彰信(特定社会保険労務士)
私は、社労士として障害年金の請求代理を中心に、必要な方に必要な支援を届けるために取り組んでいます。
『障害ねんきんナビ®』パートナー社労士として北陸3県を担当しています。
※社労士(社会保険労務士)は、障害年金請求手続を代理することが許される国家資格です。

1 改正の方向性は「本人の意思決定権の尊重」
法定後見は「補助」に一本化
最大の変更点は、「補助」・「保佐」・「後見」という現在の3つの類型のうち、保佐と後見を廃止し、「補助」に一本化することでしょう。
従って、現行では後見人に付与される包括的代理権はなくなります。
そのうえで、開始には本人の同意と必要性を要件とし、この必要性がなくなれば終了できる仕組みの導入と、本人の利益のために必要なら解任を可能とします。
その目的は、本人の意思決定権が十分に尊重される柔軟な制度に変えていく方向性といえます。
| 現行 | 改正 | |
| 類型 | 3類型=補助・保佐・後見 | 1類型のみ=補助/特定補助 |
| 制度利用開始 | 判断能力 | 本人同意・必要性 |
| 包括的代理権 | あり | なし |
| いつ終了するか | 本人の死亡・判断能力の回復 | 必要性が無くなれば |
| 解任できるか | 受任後の不正・不行跡 | 本人の利益のため |
任意後見は現行を維持、ただし細部の改正あり
任意後見は現行のまま維持される予定ですが、細部が一部改正になるようです。
例えば、任意後見監督人の選任を必須でなくする、受任者が死亡などで欠けた場合の予備的な任意後見受任者を定めることができる、などです。
2 準備期間は少なくとも2年程度
改正法の施行時期は未定ですが、少なくとも2年程度の準備期間が見込まれています。
というのは、現行法下で開始されている事案がある以上、新制度にスムーズに移行させるための経過措置が必要になるからです。
私も、現状で担当している成年後見人でありますので、どのような経過措置がとられるか注目しています。
3 今なぜ、成年後見制度の抜本的見直しが求められていたか
日本の高齢化率(国内人口に65歳以上の占める割合)は増え続けており、人口のほぼ30%、3千万人超とされています。
とくに、65歳以上の高齢者の一人暮らしも増えており、65歳以上人口のうち15~25%に達しています。
このような中で、認知症をはじめ判断能力に問題のある方、身寄りのない高齢者も増加し、認知症・軽度認知症を合わせると約1千万人と推計されているにもかかわらず、成年後見制度の利用者数は制度全体でも25万人ほどであり、思うように利用が進まない現状があります。
(参考:厚生労働省データ)
もともと日本の成年後見制度の源流が「禁治産宣告」という社会的な排除措置にあったことから、現在の制度は、本人の自己決定権を尊重し社会参加を促すことに転換してきました。
しかし、なお不十分な点もあったと思われます。
後見人等による不正事件が報道されたり、「権限が大きすぎる」「一度始めたら止められない」「ずっと報酬を払い続けなければいけない」などの批判もあるなど、社会的ニーズと制度のギャップが指摘されていました。
そこで、本人の意思決定を尊重した、もっと使い勝手の良い制度に改正することが求められていたのです。
4 成年後見制度の改正案―まだある今後の課題
「本人の同意」の要件の具体化
しかし、本人が意思表示できない場合で受任するケースでは、どうするのか。
私が受任している被後見人の方もそうですが、すでに意思疎通ができない状態の方もおられます。そのような場合に本人の同意をどのように確認するのか難しい問題です。
「本人がその意思を表示することができない場合」に本人の同意を表とする例外規定が設けられる見込みですが、具体的にはどのような場合を要件とするのか、今後の見当課題とされています。
代理権・同意権の内容の具体化
新たな補助に付与される代理権・同意権の内容は、現行と同じか、違うのか。
これによって同じ案件でも担える内容が変わってきます。
この具体化は今後の検討課題とされています。
報酬の予測可能性は
現在でも、報酬は家庭裁判所が事後的に決定しますが、事案によって報酬額は一定ではなく、具体的な基準も確認できません。
もっぱら受任者の問題としてみられがちな「報酬」ですが、これは依頼する本人にとっても大事な問題で、いざ後見人等を依頼する際いくら報酬額を想定すべきかが予測できないのです。
本人・受任者の双方にとって予測可能性をどのように確保するか、今後の課題です。
5 成年後見制度―よくある質問
Q1 法定後見と任意後見の違いは?
「法定」と「任意」の最大の違いは、この制度を使うタイミングです。
本人がまだ判断能力がある段階で、自ら後見人等を選任しておくのが「任意」、本人の判断能力がない(低下してしまった)状態になって、家庭裁判所が後見人等を選任するのが「法定」です。
任意後見は当事者間の自由契約ですから、委任内容や報酬なども基本的には自由です。
今回、大きく法改正が見込まれるのは、法定後見制度のほうです。
Q2 身上保護とはなんですか?
後見人等の任務は、ざっくりいうと「財産管理」と「身上保護」であり、それらの「家庭裁判所への報告」です。
このうち身上保護は、本人の生活全般にわたって、本人の意思や心身の状態、生活状況を守っていくことです。
ケース・バイ・ケースですが、例えば、住居の確保、生活環境の維持、治療や入院、介護のための病院や施設の契約、入退所などが含まれます。
ただし、よく言われることですが、後見人等には医療行為への同意見はなく、食事の世話や実際の介護を直接担うわけではありません。
あくまでも法律行為として契約を行うことが任務です。
Q3 報酬はどのように決まるのですか?
財産管理が後見人等の任務であることから、本人の財産から自由に報酬を得ていると誤解されることがあります。
しかし、報酬は、家庭裁判所が付与するものであり、成年後見人等が自由に本人財産から支出できるものではありません。
しかも、報酬は年間後払いで、金額を決めるのは家庭裁判所であり、客観的な基準や目安もなく、付与された報酬額に不服を申し立てる権利も後見人等には認められていません。
Q4 後見人と被後見人との利益が相反する場合とは?
法定後見においても、専門職(弁護士や司法書士など。社会保険労務士も含まれる)が選任されることもあれば、親族の方が選任されることもあります。
親族の方が受任された場合、本人の意思や生活状況をよく知っているので、円滑な身上保護、財産管理ができる場合もあれば、逆に、利益が相反するような場合も出てきます。
例えば、遺産分割協議などです。また、過大な負担に後見人等が自己犠牲を強いられるようなケースです。
Q5 市長申立てはどうなりますか?
今回の改正案によっても、市町村長が申立てできることは従来と変わりません。
いわゆる市長申立てですが、根拠法は対象となる方の状況に応じて、老人福祉法、知的障害者福祉法、精神障害者福祉法ですが、これらは触らないことになっているからです。
ただし、市長申立てでも本人の同意と必要性が問われることになることは変わりありません。
6 まとめ
以上、成年後見制度の抜本的見直しの動向について概要をまとめました。
成年後見制度というと認知症が中心と考えがちですが、判断能力という意味では、障害をお持ちの方にとっても大切な社会的サービスといえます。
核家族化が進む中、親が年をとるにつれて、親族でもなかなか頼りにくい現状があります。
そんなとき、私は専門職ならでは役割もあるのではないかと感じるのです。
社労士は、現行制度の中では後発で、司法書士、弁護士、社会福祉士などに比してまだ少ないですが、新制度に移行していく中で、しっかりと社会的役割を果たしていきたいと思います。





