4月30日、厚労省年金局が今後の対策案を含む調査報告「障害年金における認定調書の取扱いについて」を発表しました。
昨年末、日本年金機構が、障害年金の支給可否を判定する認定医による審査を密かに破棄し、やり直していたと報じられた問題を受けたものです。
今回は、障害年金と労働問題を専門とする社労士の立場から、その内容を検証します。
(※参考リンク:共同通信「障害年金、医師の判定を破棄 機構職員、ひそかにやり直し」)
(※参考リンク:厚生労働省プレスリリース)

尾崎 彰信(特定社会保険労務士)
私は、社労士として障害年金の請求代理を中心に、必要な方に必要な支援を届けるために取り組んでいます。
『障害ねんきんナビ®』パートナー社労士として北陸3県を担当しています。
※社労士(社会保険労務士)は、障害年金請求手続を代理することが許される国家資格です。

1 厚労省の調査結果まとめ
(1)障害年金の認定プロセスの実態
・認定調書に「誤り等」がある場合、再認定(同じ認定医か、別の認定医が審査)をしていた。
・認定調書を作り直した場合、不要になったものは廃棄していた。
・再認定の場合、別の認定医に依頼した理由は、期限(3ヶ月を目標とするサービススタンダード)遵守が目的だった。
(2)日本年金機構側としての認識
・「誤り等」は起き得るものであり、再認定は適切に行われていた。
・課題は、再認定する際の取扱いの明確化、サービススタンダード遵守のためのスケジュール見直し、判断困難事例での客観的かつ公平な認定のための取組、職員のスキルアップ・職場環境改善など。
(3)障害年金センターで認定業務に携わる職員約300名のヒアリング
①不要認定調書の取扱い
・記憶が定かではないが、障害年金センターができる前から行われていた。
・不要となった認定調書は、廃棄可能なものが廃棄された認識。
②認定プロセス全般
・明らかに認定基準からかけ離れており、過去や他の事案との整合性・公平性の観点から審査をやり直すことはあったが、個々の職員が恣意的に結果を変えようということは聞いたことがない。
・対面審査なので、サービススタンダード遵守のため、スケジュールが合わなければ、別の認定医に依頼せざるを得ない。
・一日に何件も認定をこなす中、一日でも早く進める雰囲気だった。
・認定医から、専門ではないので別の認定医に依頼してほしいと言われた。
・認定医も万能ではない。誤っていれば、事務方としてサポートするのは当然の職務と考えていた。
③認定業務で改善すべき点
・判断困難事例は存在する。事例の蓄積が組織的になされておらず、判断の統一化をしてほしい。
・職員も認定医と会話することが求められ、何も知らなくて良いという方向にはならないでほしい。
・残業が恒常的に続いている部門は人員増加など改善が必要。
・事務処理のIT化について今から検討開始すべき。
・着任後1年程度の職員に障害者福祉の現場体験などの研修を実施してほしい。
2 厚労省の対応策まとめ
(1)「不要となった認定調書」の取扱い
やむを得ず別の認定医に依頼した場合は、複数認定医の対象として扱い、当初の認定調書も審査書類として保存
(2)認定プロセスの見直し
①再認定は原則として同一認定医に依頼
②不利益処分等の事案は全て複数認定医
③判断困難事案は認定審査委員会
④認定事例のデータ蓄積
⑤サービススタンダードを複数審査は4ヶ月に
(3)職場環境の改善など
①認定業務のデジタル化
②認定の人材確保とスキルアップ
③職員研修の活発化、その他
3 そもそも「認定調書」とは、どんな書類?
前提として、問題になっている「認定調書」って、そもそも何?という問題があります。
社労士でなければ、おそらく見たことはないかもしれません。
障害年金は、本人が保険料納付の要件などをクリアし、請求書類によって一定の障害等級にあることが保険者(国)に認定され、等級ごとに定められた障害年金の受給権が発生します。
受給権が得られたかどうかは、本人に封書で年金証書が送られてくるので分かります。
不支給認定の場合、その理由が簡単に記された通知書が送られてきます。
しかし、実は、認定プロセスで作成されている文書は、他にもいろいろあり、そのうち最重要クラスが「認定調書」です。
これは内部資料なので、原則、外部に出ません。
(あえて保有個人情報開示を請求すると出てくるのですが、かなりの時間と労力を要します。)
「認定調書」は担当職員の事前確認に基づく申し送りと、担当認定医の審査内容が生々しく手書きされており、担当者名や認定医番号の入った日付印が押された書類です。
4 今回の「再認定」と「セカンドオピニオン」は似て非なるもの
(1)平成30年から開始された「セカンドオピニオン」
ところで、今回の「再認定」は「セカンドオピニオン」と何が違うの?という意見もありそうです。
「セカンドオピニオン」は、実は、すでに平成30年から障害年金の認定プロセスにおいて実施されている仕組みです。
これは、平成27年8月に、精神および知的の障害について、客観的な検査数値等がないことによる認定医の等級判断のバラツキ(「地域差」として表出)が社会問題となったことに端を発しています。
翌平成28年9月、等級判定の客観性・公平性を担保する目的で「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が施行されました。
そして、平成29年4月からは、それまで都道府県ごとの事務センターでバラバラに審査し認定していた障害基礎年金を、すべて東京(日本年金機構障害年金センター)に集約し、一括して審査し認定する方式に変えました。
その影響で、当然にも、センターの認定業務の負荷が増大しました。
当時、相当数の認定医が新規採用され、その大半は障害年金の認定経験がなかったようです。
そこで厚労省が、平成30年7月10日付で、年金局事業管理課長名の文書(年管管発0709 第5 号)を発し、「認定医の医学的な総合判断を特に要する事例は、担当の認定医のみならず、他の認定医の意見も聴いて判断する」ことを指示したのです。
これが、現在実施されている、本来の「セカンドオピニオン」です。
実際に、上記の「認定調書」の右上をご覧いただくと、「セカンド対象」というチェック欄があるのが確認できますね。
(2)今回の再認定との決定的な違いは「認定調書の保存」
本来の「セカンドオピニオン」と、今回の再認定には、決定的な違いがあります。
それは、本来の「セカンドオピニオン」の仕組みは、「実施した実施伺、認定調書及び診断書それぞれの写し等を障害の種類毎(精神、内部、外部)に別保管する」と定めていることです。(「セカンドオピニオン実施手順」令和元年7月21日制定)
つまり、認定医A’による認定調書Aと、認定医B’による認定調書Bを、いずれも保管するルールなのです。
古いほうは不要物としてシュレッダーにかける取扱いはありません。
だから、請求者や代理人である社労士が、保有個人情報開示を請求すると、AとBの認定調書が2枚開示されます。
認定調書を勝手に廃棄していた今回の再認定は、この本来の「セカンドオピニオン」の仕組みとは似て非なる行為であることがお分かりいただけると思います。
5 厚労省の対策は「対症療法」そのもの
(1)「原則同一の認定医に依頼」は裏返り
「認定調書の書き損じや誤り等は、…起き得るものであり、再度の認定プロセスにおいては、…適切な審査が行われていた」という日本年金機構側の「自己評価」の高さはふるっていますね。
おそらく誰も納得できないのではないでしょうか。
本来は保管すべき認定調書を廃棄していた当事者が、「適切に審査していたよ」と自ら言うわけですから。
社労士である私は、再認定が必要となる一定のケースがあり得ることは理解します。
請求する側にとっても、納得できない認定はあるからです。
しかし、保険者が実施する再認定の目的は「障害年金の認定の客観性・公平性を担保する」ことのはずで、最低限、後から請求者が認定プロセスを検証できるよう、記録が保管されなければなりません。
それは、請求者が不服申立(審査、再審査)を行うときにも、重要な資料となり得ます。
今回の職員300名のアンケートで、「不要となった認定調書」とか「廃棄可能なもの」という言葉がありました。
なぜ、担当職員が「不要」「廃棄可能」と判断できたのか?
それを明らかにしてほしいと思います。
「当初の認定調書も審査書類として保存」という対策は、何のことはない、本来すべきであったこと以上でも以下でもありません。
そして、「原則、同一の認定医に再認定を依頼する」という対策は、「対症療法」も甚だしいと思います。
問題があるから再認定が必要なのに、再び同じ認定医に依頼しなければならないとすれば、本来あるべき「セカンドオピニオン」の趣旨から裏返ることになるでしょう。
(2)「サービススタンダード」4ヶ月は、いくら何でも長すぎる
しかも、今回の背景的な要因は、あたかも「サービススタンダード」(請求者に結果を通知する目標期間として3ヶ月を設定していること)の遵守に苦慮した結果であったかのように読めます。
問題の所在をスケジュールのタイトさにすりかえ、3ヶ月を4ヶ月に延長するなど、これは、是非とも再考を求めたいです。
保険者(国)は、これまでも「1件1件丁寧に、認定医が医学的に総合判断して等級を決定する」としていました。それを「サービススタンダード」として4ヶ月に延長することは、請求者にとってたいへんな不利益変更です。
精神の障害であれば、不安にさいなまれながら4ヶ月間も結果待ちとなることで、障害をますます悪化させかねません。
サービスは、あくまでも相手のため。
そのスタンダードも、自分本位ではなく、相手のために設定すべきです。
(3)労働環境改善の今さら感が強い
そして、認定業務のマンパワー確保、スキル標準の引き上げ、デジタル化の推進、認定事例の蓄積、障害福祉の現場研修、認定医とのコミュニケーションといった、今あらためて職員の指摘を受けた「労働環境改善」を、日本年金機構には重く受け止めてほしいと思います。
もちろん、これも今さら感が強く、問題の所在というより条件面、環境面の整備にすぎませんが…。
6 まとめ―対症療法で病は治らない
今回の報告書について、当地の新聞報道の見出しは「障害年金判定原則1度」でした。
報告書の内容を読んでみると、このようにまとめられるかどうかは、やや疑問がありますね。
紙幅の都合もあったとは思いますが…。
いずれにせよ、一昨年からの障害年金をめぐる厚労省の対応は「迷走している」といわざるを得ません。
対症療法は病気を治せないどころか、悪化させることもあり得ます。
障害年金を必要としている方々にしわ寄せがいくことは、絶対にあってはならないことです。
引き続き、障害年金に携わる社労士の一人として、この問題を注視しながら、必要な方に必要な支援を届けていきます!



